ビワハウスの続編


1 風子、走る

調布市の外れ、昭和の終わり頃まで農村風景だったこの辺りも新興住宅地となり、人口はそれなりに増えている。商店が並ぶのはもう少し駅に近いところにあるので、もっぱら巡回のバスを利用する人が多い。民子がまだ20代、大学の若い研究員だった時に、この辺りの豪農だった新井家の一人息子、新井裕は若くしてすでに世界から期待される民族学研究者で、すでに教授であった。新井は結婚していたが、娘の風子が5歳の時に離婚、勢いで娘を引き取ることになった。ただ、新井は忙しすぎて、海外研究出張も多く、娘を一人で育てていくのは到底無理、そこで子育て中心のヘルパーの募集を知り合いの研究者の若い仲間にかけたところ、家無し金なし度胸だけはありすぎな民子がすぐに手をあげた。民子には渡りに船のバイトだったのだ。広い敷地には古いけど大きな家が立っていて、部屋は何部屋もつかわれていなかった。そこへ、家政婦として料理もできないのに、民子はもぐり混んではや、13年。十年前から新井と民子は事実婚状態で、風子と民子は、擬似親子のような戦友のような、親友のような、得難い関係となりつつある。風子20才、爆走が始まりそう。

風子・民サァン、ちょっといいかな。(民子の部屋の前)

民子・どうぞォ、あら、今日はビワハウスのバイト日じゃなかったの❓

風子・そうなの、今日は一日雨でお客少ないから早仕舞い、タミさんにお土産にいろいろいただいたんで、夕飯、これにちょっと足して、ビールでもいかが、とか思って、それに、ちょっとたみさんに話しておきたい件、ありなの。

民子・そりゃぁ楽しみだ。今もう一枚原稿書いたら、本日のたみさんは仕事上がりにします、下のキッチンで食べようよ、二人だけだし。

風子・冷蔵庫、座ったま開けて、ビール出せるもんね。

民子・バレてる。

風子・夏さんにいただいた、ビワハウス庭のフルーツの入ったワインがとってもうまいんですけど、、、、。どこにもない味だよ、これ。

民子・うわー楽しみ。アリがテーーーー、サングリアね、もちそれも飲むヨォ、、、。

(キッチン 風子は料理が得意、民子は食べるのが得意)

民子・なあに、この豪華な夕食、あれ、私の誕生日だったかな、違うよね。

風子・ゆっくり食べて、飲んでください。 揚げナスとズッキーニーとトマトのマリネ、いい味よ。これとしらすと小松菜とのりのパスタは風子が作りましたよ、他諸々はビワハウスから。私もサングリアだけお味見程度にはのみますね。20歳になったし。

民子・ふうちゃん、あたしに似ないでよかった、料理好きにして、しかも腕がいい。

風子・ハイハイ、どんどん褒めて、好きなだけえ食べてね。風子はたみさんに似てるとこひとつもないね。13年ぴったり親子ごっこしてるのに、笑っちゃうね。

民子・あっそうだ、昨夜の電話、ふうちゃんのパパから、伝えるね。今年は冬に3ヶ月、日本に帰ってくるらしいよ、真冬に北海道へ数週間行くらしいけど。こんなに長期に日本滞在は珍しいよね。いよいよ先輩も62歳か、、疲れ出てきたかな。

風子・そうなんだ、その北海道行きに風子一緒しようかな、彼も休み取れそうだったら、3日でもいいからって誘ってみるわ、それでパパに会ってもらおうかな。

民子・うん、それいいね。私もまだ風子の彼に会ってないけど、一度この家に連れてきてね。パパに会わせた後でいいよ。どんなやつだろう、楽しみ。しかし、なつさんのサングリアは絶妙だね、なんだろう、この微妙なスパイスの入れ方は、、、。それでさぁ、あたしの愛しい娘もどき風子の相談ってなんですかぁ、、、。

風子・そう、それなんだけど、彼、しんちゃんといろんな計画や実際の仕事のね、ビワハウスの記録とか、なつさんの植物図鑑とか本にするために始めてるんだけど、しんちゃん印刷屋の営業兼編集だから、ちっちゃな5人しかいない蒲田の印刷会社だけど、そこで自家製本として出すことにボスが承諾したみたい。いいよね、なつさんの植物図鑑と和子さんのご飯レシピも本にするよ、豪華本じゃなくてね。実用本ね。。しんちゃんはだから私よりビワハウスに入り浸ってる。笑えるよね。あんなに人見知りだった彼がビワハウスの高齢者たちとは無二の親友みたいなんだもん。ちょっと民ちゃん、あんまり飲まないで、ちゃんときいてよね、細かく言い始めると山のようにあるので、数年先の、5年くらいかな、私のおもう形、これから先にはこうなっていたいかな、の話をしていいかな、できるかできないかは、ちょっと置いておいてさ。

民子・まだ酔ってないよ。 そのしんちゃんん、会わなくてもタミちゃん大好きだわ。

風子・うん、わかったわかった。続けますね。まず風子は子供を生みたいです。しんちゃんの子供を生みたいです。で、このうちを改造してここに死ぬまで住みたいです。いつかパパが日本に定住する場所、たみさんが高齢者になってもいる家、ここに私たち風子と森一チームも住みたいです、この家はビワハウスよりかなり広い。敷地ははもったいないくらい畑にできるくらいある、東京でも珍しく元農業地帯だ、でね風子は小売の農業やりたいんです。未来の農家を作りたいです。タミちゃん、、うちの前のでっかいけやきは残して 農民けやきハウス にしたいの。まるっと大筋言えばそんなとこ。細かくはいろいろ、、、、。たみちゃん大学に行きたくない私をそのままにしてくれてありがとう。おかげでしんちゃんにも会えたし、ビワハウスでめちゃ勉強したし、なつさんの植物愛に導かれて、農業やりたくなったし、描けなかった苦手な花、薔薇の絵描くのすごく好きになったし、。たみちゃんありがとう。こんな話をパパが帰ってきたら旅に一緒に行きながら話すよ。まず母もどきのたみちゃんに話したよ。世の中の決まりとかにはできるだけおりあいつけるけど、しんちゃんとも話したけど、結婚はしない、子供は産む、農業で食っていき、それで子供育てる農婦になるよ、風子走るよ、止めないで。

民子・なんか、農業とは思いもつかなかった、、、風子は絵描きになるのだと思い込んでた。けど、風子の気持ちは受けとめた。口出ししない、協力することあったらいつでもする。家の改造のけんはパパに話して欲しい。私、ほら居候だから。建て直したハウスに私いてもいいんだか、よくわかんないし。でも、風子の農民ハウスには一ショウ住みたい。

風子・うん。たみちゃんの妄想お話ルームは必ず作るよ。小学生の時、何よりもタミちゃんが思いつきで作ったお話聞くのが楽しかった。今、風子はそのお話の主役やってる気分だよ。風子はお話作るように、大根、にんじん、玉ねぎ、枝豆空豆、小葱、しそ、芋、みんなが毎日食べてる野菜を作りたいの。

民子・私、お話なんかしてたんだ、全然覚えてないわ、ありゃあ、、、。あんたのパパ、風子が農業やるって言っても大して驚かないと思うよ。むしろ喜ぶかも。私はびっくりしたけど。

2 天使は突然やってくる

風子(独白)民子さんに農婦を目指す宣言してから2ヶ月後、近くの元農業やっていた方、現役の方たちにありがたく、ご相談に伺った。普段の生活では思考もそろそろ衰えてるみたいだが、ことご自分の数十年にわたる畑仕事のことに関しては実にテキパキ答えてくださる。ご自分の身体の中にしっかり蓄えてきた経験を聞かせていただき、風子、大いに勉強になりました。お話を順に伺いながら終わりに近づく頃には、しっかり確信をモテたのです。東京のはずれで農業と加工品製造業はリアルに商いになる。しかもうまくやれば大儲けはしないが、そこそこ数人の仕事として成り立つかも、そんな感想をもった。これから私の考えてる農業をどうしていきたいか、人から教わりながら土づくりからはじめようと動き出したその矢先、物事は時々違う方向へ寄り道することになるらしい。最近妙に疲れやすくて、何も食べたくなかったり、いらイラしたりするし、変だなぁと気がついたときには、すでに風子と新一の天使は風子の体内に来てしまっていた。しかも4ヶ月、あと半としでこの世に参加するらしい。風子、どうする。いや、もち嬉しい、飛び上がるほど嬉しい。ようこそようこそ私の涼(すず)ちゃん、ずっっと前から名前は決まっていた。だけど。、、こわっ。

風子・しんちゃん、緊急事態発生。今日話せるかな。風子の家まで来れるかなぁ。雨で滑るの怖くて私出られない。

森一・へー、そうなんだ、熱でも出たかな。。行けると思うよ。民子さんにお土産持ってった方がいいかな。

風子・いや、飲食は十分ある、ここへ泊まりできてよ。軽トラどこでも留めておける。

森一・了解。風ちゃん、食べたいもんある❓

風子・海苔巻き寿司‼️

森一・そういうの好きだった❓  じゃあ、2時間後くらいになるけど行きます。

風子・あのね、会ったら言うつもりだったけど、我慢できない。電話でさき言っちゃうね。私のお腹に涼ちゃんが来ちゃったの。さっき病院へ行ってきた。確認してきた。

森一・えええええ、そうかぁ、、、それで酸っぱい海苔巻きね。あぁ、、驚いた早めに行くよ。

風子・うん、なんでもないと思っていたけど、めちゃ怖いよ。嬉しいんだけど。気持ち悪いし。泣きそう。

風子・わかった。俺妊娠経験ないけど、そうだ、雨の中出ちゃダメだよ。転んだらえらいことだ。すぐ行くよ。

風子・うん。

(玄関チャイム)

風子・ほんとに、すぐすぎるくらいすぐにきたね。

森一・道空いてたから。風ちゃん気分どう❓海苔巻きは少し買ってきたけど、おれ、なんか作ろうか。しかし、でかくて古い家だね。

風子・うん、テキトーに野菜使ったスープが食べたいかも。あと、あったかい豆腐とか。材料はキッチンにいっぱいあるから、好きに使って。あたし休んでていいかなぁ。この間ビワハウスで偶然民さんと会ったんだってね、よかった。1時間くらいしたら、たみさんも帰ってくるように連絡入れておくね。多分駅の近くの図書館にいるはず。まだたみさんには涼のことは言ってないの。

森一・分かった。少し多めにいろいろ作ってみるよ。ふうちゃんそこのソファで横になってて。涼ちゃんも眠いかもしれない。

風子・急に、私もしんちゃんも日本昔話のおばあさんとおじいさんになった感じがしてきた。笑。

森一・ほんとだね。なんかお腹にかける毛布とかとってきたほうがいい❓

風子・2階の階段あがってすぐの部屋にある、頼みます。あぁ、今夜しんちゃんが寝るとこね。

森一・えと、じゃあぁ、生姜やねぎ入れたあったかい豆腐と、肉入り野菜たくさんキムチ鍋作りますかね。牛蒡あるから牛蒡の唐揚げなんていうのは呑助の民さん用ね。おっ、うまそうなピクルスがあるから、これはこのまま。レタスは卵と焼きますかね。プレイヤーがあるじゃないっすか。レコードかけよう。風ちゃん寝られるように、あっもう寝てるわ。そと雨なのにとっても静か、落ち着く家だ、ふうちゃん建て直したいなんて言ってたけど、俺、このまま補強していくのがベストだと思うな。

風子・うっすら聞こえてるよ、たまに来た人は必ず、このままがいいって言うんです。珍しいからね。こんなに古いの使いにくいし、無駄に広くてもったいない気がして、でもまだ何も決めてないよ。畑作り、土づくりのこと先ね。

森一・わかったよ。寝てね。

(玄関チャイムが鳴って、民さんが帰ってくる)

民子・あら、しんちゃんいらっしゃい。風ちゃん調子悪いんだって。あらま、ご飯作ってくれてるノォ。

森一・ええ、たみさんのおつまみも作りましたよ。笑。牛蒡バルサミコ焼きです。これうまいんですよ。

民子・うわ、楽しみ、何々、他にもいろんなのあるじゃない。これ豆腐のスープ、うまそうだ。

森一・それはふうちゃん用。

民子・ハイハイ。ちょっっとしゃわーだけ浴びてきますね。

風子・しんちゃんもたみさんもいてくれたら、気分治った。ひとりでいるのが不安だったんだね。妊娠て微妙に精神的だね。

しん・笑。精神的ていうか、一人でこのでかいうちにいるのが無理だよ。俺、これからはここにいるよ、そのうち引っ越してくるし、土造り始まったら。で、印刷屋に週2かい出勤で、ボスと話してみる。

風子・うん、そうしよう。

民子・おヤァ、風子さん風邪治ったの❓

風子・たみさん、わたし今日ね、産婦人科というところへ一人で行ったのね。それでいろいろショックはあったんだけど、涼ちゃんが私のとこへすでに来てくれてたの。

たみ子・ええええええっ。そりゃ大変じゃない。風子、気持ち悪かったんだね、お腹痛い❓吐きそう❓食べれる❓すずちゃんが蹴ったりしてない❓

風子・タミさん、落ち着いて、落ち着いて、まだ蹴ったりしないよ。でも4ヶ月半だって。来年の春には、すずちゃんくるの。

たみ子・どうしよう民子、なあんにもできなくてごめんだよ。

風子・大丈夫。とっても優しい看護師さんがいたし、相談しながらちゃんとやるよ。たみさんがうちにいてくれるだけでありがたいよ。しんちゃんもそのうち引っ越してきてくれるって。

たみ子・しんちゃんも風子も若い父母だね。おめでとうさん。うーーーん、たみちゃん泣いちゃうかも。とりあえず、食べよう。うまい、このゴボウのバルミコ焼き、豆腐すーぷもなんだか懐かしい味だね。風ちゃんお肉も食べたくなったの❓珍しいね。

風子・あんまり食べたことなかったんだけど、しんちゃんのロース生姜やき、優しくて美味しい。肉っておいしいね。あと無性に寒天食べたい。

しん・ あ、それはうちの森屋豆腐店で売ってるから今度持ってくるね。蒟蒻も寒天も豆乳も出来立て食べよう。

風子・不思議だ、、、今まで好きじゃなかった食べ物がおいしい。きっとすずちゃん手に負えないヤンチャかも。

3 土づくり、チームづくり

風子が妊娠7ヶ月に入ると、土づくりが早速始まった。家の生ゴミ、庭の落ち葉で堆肥づくりもスタート。ついに命名が「npo法人ケヤキ農場」に決まり、民子さんの研究課題の一つに大学へ申出してあるらしい。題して『東京の農民』。ここから、いろいろ広がっていけるようにだけど、風子は子を産み育てと農家と良い具合のバランスでやっていいけるのだろうか。しんちゃんともたみさん、手伝ってくれる農家ベテラン元ジイさん、仲間になる農民連の学生たちとも、共に助け合ってやっていきたい。どうかよろしくね。間違ってもトップダウンはなし。なんせ、皆素人からのスタートです。

しん・今日は連のみんなも、風子も僕も師匠の元じいさんの話を聞きたいと思います。

げん・皆さんこんにちわ 元です。ここのお宅の広い敷地の端っこを長年お借りして農業やってましたが、今は花と、自分の食べたい野菜しか作っていません。だけど、ここんちのお嬢ちゃんがここら辺りを農家にしたい、という話聞いて、おれ嬉しくて、皆さんのお役に立ちたいと思ってる。なんでも聞いて。なんでも答えられると思う。あと10年は生きて頑張れる気がしてる。風子お嬢ちゃんありがとう。

風子 お嬢ちゃんはやめて、師匠。

げん・ははは、まずここで土の話をしときましょうか。来年春まきから始められるように、寒い時期も重なるけど、半年土耕しにかかります。長い^^^、なんて弱音吐かない。ここが大事。大きな根っtこや、石は機械で動かすけど、あとは人間の力だね。掘って踏んで、フカフカの土にしようヤァ、、、。

連の一人豪ちゃん 朝何時からやりますか。終わりは何時。どんな時間帯で学校行ったらいいんか、考えてて、休みの日や冬ちゃすみはフルでやる予定

げん・一人一人来れる時間をしんちゃんのほうに出してもらうかね。うまく計画表作れんば、スケジューるふうちゃんお願い。あとみんな近くにに住んでいるから自転車使ってこれるし、なんなら俺ンチに下宿してもいいぞ。俺一人だし。じじいが嫌なやつは無理だけどな、、、。

豪ちゃん おれ、春からそうしようかな。そうしようかなぁ。

かのこ・高校生なんですけど、いま3年、来年春からはここ一本で働きます。大学へは必要が出てきたら、考えます。私夢があって、保育農業園みたいなのやりたいんです。子供たちに小さい時から畑作業やってもらいたいんです。

風子・かの子さん、私もそれ考えてて、来年秋の収穫すときから、近くの園児誘うつもりでいるよ。わー仲間だ。私のこのお腹の中のすずちゃんて名前なんだけど、春に生まれたら、生まれた時から農園でお昼寝してもらう。赤ん坊農民一号。

げん・親たちが結構面倒だけどな、、。

シン・農園で作るのに、ここでは無理な作物ってありますか、げんさん。 風子は家の縁側前の広場はハーブ畑にする予定だよね、ビワハウスから移植して。あと何、レモンの木はあと3本植えたい、残りの樹うえていいとこにはイチジク柿巣立ち柑橘類枇杷など欲張ってるんですかけど、、、。

げん・おれかじゅはよくわかんないから、隣の市の果樹園やってる男、今度連れてくるわ、

しん・風子 よろしくお願いします。こちらもハーブの師匠にも来てもらうので、その時果樹のこと聞いてみます。

げん なんだかよう、俺たち百姓と、チーと違ってて、モダンで可愛い農園になりそうだ、npo法人ケヤキ農場だってよ、。爺さん、ウキウキしてきたよ。

 

農民連のみんなと農業の師匠、元じいじと円座でミーテイングしたせいか、一つ大いに大きな一歩を踏み出した。風子はお腹のすずもきいていたとおもった。円座ミーテイングはそれからも時と場合にたくさん開催した。皆そこで自分の言葉で思い切り喋るので、農作業の間は寡黙だ。

農民連は最初は4人、学校へ行きたくない高校生が二人と、大学一年の剛ちゃんとかのこちゃん。始まりはそんな感じでいいんじゃないかとは無理は禁物主義のタミさんの進言です。不登校の高校生は、2学期から早朝の農作業の後学校へいくという変則的登校者に変わっていった、全く行かないよりはそれも進歩と捉えよう。そのまま二人とも大学へ進み、卒業まで農場に通ってくれた。今は一人は地方公務員、もう一人は市内の学童保育の教員となっている。いまだに休日には農園へ来てくれる。ここでの作業が、きっと彼らのこれからの仕事にも生かされていくと、風子は信じている。剛ちゃんとかのこちゃんはいまだに来ている。もはや農園の一番の働き手になったいる。剛ちゃんはそろそろ独立してどこかに新農園を作ることになるのだろう。その後バラバラと絶えず4、5人は農作業に集まる。集荷の際は近所のお母さん、おばあさんまで担ぎ出されて出されて、それはそれは賑やかな農園になるのでした。

4 印刷屋and小出版社のボスと農民森一との昼下がりミーテイング

ボス・シン、農園も12、3年やってきて、だいぶ軌道に乗ったんじゃない。

シン・まだまだですよーーー。ほんと農業って生きもの。去年うまくいっても今年そうはいかない、なんてことザラで、なんでしょうね、大いにその場所と天気と風と水とおひさんと、こんなに手がかかるんかい、と毎晩ぐったりの時ありますもん。風子はすずが生まれて子供も野菜も話しかけてやんなきゃダメだ、なんてオカルトぽいこと言いだすし。笑。

ボス・イヤー、こちらは食べるだけですまん。だけど、身びいきじゃなくて、けやき農園のの野菜、まじうまいよ。おれ葉物なんてささっと洗ってなまで食うよ。にんじんも大根も、生でいける、刺身だね。

シン・そう言ってもらうと嬉しっす。すずが丈夫なのは、明らかにここの野菜食って育ったからだと思う。普通の食卓に必要な野菜がけっきょくちゃんと売れていくし、食べられてるんだと、わかって少しほっとしてる。宅配で回って配達してるのも店屋はほとんどなく、豆腐類も一緒だから、普通の家庭です。あと、風子の父親が海外拠点から引き上げてきて、かんぜんに自宅で仕事するようになったでしょ、3食ともうちの野菜中心のご飯にしたせいか、ものすごく元気。学長推薦も辞退して、家にいたいらしい、ともかく農園が好きで、勉強時間の他はツチいじってる。これは風子も私も思わぬ展開だったと喜んでる。タミさんと二人の蔵書室を地下に作っているんだけど、二人とも楽しそうだよ。いいカップルだよなぁ、、、。たみさん、先輩から薬指にはめたりする指輪もらったりしようかなぁ、、、なんて言葉が出てきてる今日この頃なんだ、やっとね。

ボス・たみさんて、すげーよね。眼力、人間力の持ち主だよ。しかしあのすずって子は変な子だね。、しんちゃん家の豆腐屋へ行った時に、お前のお母ちゃんと三味線弾きながら、演歌歌ってたぞ。上機嫌でざぁ。

シン・そうなんですよ。うちの母ちゃんとめちゃ気が合うらしくて、お客の注文野菜と一緒に配る配達豆腐もらいに行くときに、俺がすず乗っけていって、夜引き取りに行くんですけどね。うちにいる時は学校から帰ると畑で歌ってます。連のみんなからリクエスト受けて。あいつ中学までが義務きょういくなら私義務だけでがっこは終わりたい、なんて言ってますしね。

ボス・ところで、先日、ちょうど民先生とあってさ、、先生の東京の農民というレポート読ませてもらったんだけど、これが出色なの。しん、そろそろけやき農場のこと、農民連のこと農民けやきハウスのこと、まとめていかないか。ビワハウスも3年くらいかかったし、おかげで、すごい評判がいいし、シンの大崎の豆腐屋も含めて、こりゃ、面白い読み物だと思うよ。しんが一冊に。風子は樹、野菜のスケッチと育て方、俺作りたいなぁ、あの子の絵、めちゃ好きだし、

シン・フウのはすぐにでも出来そうだな、、、。ものすごくスケッチしてる。絵描きにならずに農婦になるって言ったのは誰だっけ、てチャチャ入れたいくらい描きまくってる。風子の場合は言葉だとうまく言えないから、絵で描くんだろうね。

ボス・わかった。民先生にも序文とか書いてもらうつもり。じゃあ、スケジュールゆるく出してみようか。

シン・ええ、そうしましょう。ありがとうございます。それと、もっっとも大事なこと。始めた時と12、3年たった今とでは、気候がまるで違うんで、それが驚きだし。収穫物や果樹の味が落ちてきてる気がしてんですよ、実は。俺と風子はなんとなくおかしい、と気づき初めていたんだけど、2025年を境に、かなりはっきりしてきた、これから5年、10年先の地球はどうなっちゃうんだろう、地上で作物作れる日がなくなるんじゃないか、、そんな恐れまでありますよ。おれ。それ考えると、早めに書いて世に問いたいです。やばいですよ、かなり。

5 すずこは歌う

高校へ行かない宣言をしたすずこはひたすら自分でパスモ使って森屋豆腐店へ通い出した。お店の手伝いもあるけど、しんちゃんの父母、つまりすずにとっては若いじいじばあばととてつもなく仲良しなのだ。とし子ばあばは元流しで蒲田で歌っていたらしい、今でも日曜日の午後は豆腐屋の2階三味線教室になる。すずもじーさんバーさんに混じって三味線習いに来てる。もともと歌うのがこの世で一番好きなスズだから、三味線も上手くなるの早かった。

としこ・ すず、今夜は暗くなる前に一人で帰れるよね。

すず ・としこバァ、どこか行くの❓

としこ・そうなんだ、もう少ししたらじいちゃんと蒲田の居酒屋へいく。すずは帰んなね。

すず ・嫌だ、すずも連れてって。

としこ・ダメだよ、遅くなるし。今夜は私そこで歌うんだから、ずっと前に、あたしが流しのおじさんの伴奏やっててさ、お世話になったとこ、古いお客さんが集まる。だから今夜は帰りなね。

すず ・私だって歌えるよ。ね、としこバァ。すず、もう少ししたら流しになりたいんだもん。

としこ・すず、流しをなめんじゃないよ。(往復ピンタが飛ぶ)

すず子はあまりの痛さと驚きで泣くのも忘れて、自分のトートバックかき抱いて一目散に一人で駅に向かった。電車の中でもぽヵんとしてしまった。家について自分の部屋に駆け込むと、ようやく大泣きし始めた。悔しいからじゃない、痛いからじゃない。夕飯できっっちんにはたみさんもグランパも風もシンもいるらしいのだけど、足がそこへ向かわない。

民・トントン、すずちゃん、なんだか泣き声聞こえたんだけど、タミちゃんの空耳カナ❓ 今日はすずの好きなしゃぶしゃぶだよ、もし気が向いたら食べにきてね。みんなは、食べ始めまーーーす。

すずがとしさんからおモイきりピンタくらったことは、階下の大人たちはすでに知っている。しんちゃんの父から心配と謝りの電話が入っていたのだ。風子はその電話で、お父さんやお母さんが謝らなくていいんです。すずが生意気な口聞きました。謝るのはこっちです。帰ってきて自分の部屋で泣いているらしいけど、放ってあります、。その時二階からひらりと一枚の紙が落ちてきました。みんなで回し読みしてニンマリ、メッキリ涙もろくなった世界的民族学者のグランパは目をしばしばさせながら読んでいた。

♩すずの手紙

父さん 母さん たみさん グランパ

すずこはヒジョーにうのぼれていました。

歌がうまいのも、みんなから大事にされるのも、すずこがすごい人だから、当たり前だ、くらいに思っていた。

としこばあちゃんにピンタされました。

あんまりびっくりして、痛いのも気づかなかった。

帰りの電車の中で痛くて悲しかったけど、泣けなかった。

としこばあちゃん、ピンタしてくれてありがとう。

あのピンタですずこのうのぼれはどこかへ飛んで行きました。

豆腐やじいちゃんぎゅっと抱きしめてくれてありがとう。

すずこ14歳 もっと勉強して 国境のない農業団に入ります。←こういうのあった❓

6 サヨナラは言わない。

開墾を始めてから数えると15年の月日が経っていた。ある日、相談役の民さんから、本を出したり、収穫祭イベントやったり、食品加工品も生まれてることだし、農家だけでは括れないから、npo法人ケヤキ農場にしておいてよかった。、税制面でも確かにやりやすい、どこか違う場所に仲間が農場開いても、有利に動けるはずだ。森一はすでにあと2カ所で新規の農場と農家保育園を、連の豪ちゃんとかのこちゃんと計画していたので、npoで全体をまとめていくことにした。それぞれ横の連系はあるけど、あくまでも独立採算のやり方で模索していく。

15歳になったすずは途中から入学でもいい、高校から大学へとそのまま行くことが可能な私立学校へ入ることになり、今まで歌って踊ってた分を勉強、特に農業と地球環境の勉強に没頭し出した。他の大学の研究会にも潜りで入り込んでまで熱中し出したので、これはこれで、問題山積だけど、警察に逮捕されるわけじゃないよ、という本人の言葉で風子と森一は心配を引っ込めた。すずよ、どこへでもうまく潜り込め、歌って踊ってごまかせ❗️

春一番が吹き、桜が満開になった、ある日。とんでもないことが起こった。

電話の声・ もしもし。こちら神奈川県立病院救急課のものですが、そちら森屋森一さんの携帯でよろしいでしょうか。

森一・はい森屋森一は私です。

救急課・先ほどこちらに新井民子様が救急で搬送されてきまして、お持ちになっていた荷物の中から、緊急の場合に限り森屋森一さんに連絡する旨の書き物を見つけましてご連絡させていただきました。なお、ご本人の身分証にありました大学の事務局にはすでにご連絡入れてあります。

森一 民子は義母です。どうなんでしょう、容態はどうなんでしょう、車ですぐにそちらに参ります。30分でいけると思います。

救急課・脳出血、とても危険な状態です。もしご親族の方をお連れできる場合は至急でお連れください。救急受付でわかるようにしておきます。

森一・わかりました。

それからのしんいちの動きは迅速だった。グランパ、ゆうさんにすぐに出られるように準備させ、風子は連れて行くこと自体不安だったので、まず俺と義父さんで行ってくると説き伏せて、電話を受けてから5分で病院へ向かった。夜10時は過ぎていた。

病室は静かだった。すでに緊急治療の機材は外されていて、たみさんは眠るように安らかな顔で横たわっていた。医者に経過事情を聞く間、たみさんの手を握っててあげるようにシンイチは義父を座らせて、まだ柔らかく温かみの残るたみさんの手を握らせた。

救急医・ご主人と義理の息子さんですね。新井民子さん10時12分お亡くなりになりました。ご愁傷様でした。

経過を申し上げます。救急科に電話が入りましたのが9時08分、ゼミの学生さんの羽島様からであちらの控室いらっしゃいます。研究講演のあと、7時頃から二次会で、数人の学生さんとと機嫌よく飲んだり食べていたらしいのですが、8時半頃教授が急に頭が痛い気持ちが悪い、電車で帰れないかもしれない、でもうちの人にれんらくはちょっとまって、と言いながらクズれてそのまま寝てしまったようで、ちょっとおかしいかな、と思った学生さんがこちらの救急車をコールしたのが9時です。時間的には間がそう空いておらず、なんとかしたかった、手を尽くしましたが大変残念です。

森一・迅速な対応ありがとうございました。義母は時間かかっても今夜のうちに家に連れて帰りたいです。学生さんたちも遅くまで付き添っていただきありがとうございました。グランパも学生たちも俯いて泣いてばかりだ。無理もない。民さん、よくぞ俺の携帯を緊急時の連絡先にしておいてくれたね、民さんはどこからどこまでも賢い。だけど、早すぎるよ。風子になんて連絡したらいいんだよ、酷だぜ。

家の一番いい場所、庭のハーブ類と果樹が見渡せる部屋にたみさんは真っ白な布団の上に寝かされている。真っ白だと寂しがると、グランパがバラの淡い色のを選んで、たみさんの顔の周りに置いた。美しい。あと数時間で通夜の客がたくさん来るだろう。通夜の客ようにしんちゃんの両親は台所に入ったままだ。

風子はタミさんが家へ帰ってきてからずっとそばから離れない。何も口にしないままただ泣いてる。いつまでも泣き止まない。皆声のかけようがないので、そのままにしてある。すずはたみさんの髪を撫でたり手をさすったり、やはりグズグズ泣いてる。

一段と高い声で泣き出した風子、民ちゃん、一人で逝かないで、私も一緒に連れて行って、やだよ、風子タミちゃんがいない毎日なんて嫌だよ。どうしていいかわかんないよ。たみちゃん、声も聞こえないよ風子そんなのやだよ。(また泣き出す)

森一・分かった、風子、もういいだろう、さぁちょっと俺とすずと三人で部屋へ行こう。

風・やだ、タミちゃんとずっと一緒だよ。

グランパ・しんちゃん、泣かせてやりなさい。

森一・いや、お義父さん、これ、風は限界です。これ超えると危ないですよ。さぁ、おれ連れて行くよ、風そんなにしてたらタミさん困ってるよ。すず子、ママの手をにぎって、立ち上げて、さぁいくぞ一度横になろう、な、風子。一度くらいは俺の言う通りにしなさい。

風・、、、、、、、、、、うん、わかった。わかったよ、しんちゃん。風子、眠くてお腹もすいた。

森一です。

今年2032年になりました。俺、地球はほんと壊れてきているのではないか、そんな気がしてきてなりません。まず四季の境も気温の上昇も降雨量と今までにはない数字が出ています。

作物を日々作る農民の俺たちはその都度の対処をしてきたわけですが、どうやら根本的にやり直しを考えないと危うくなってきてるようです。

すずは大学生のうちからコメを食べるアジアを中心に飛び回り、あいつ本気で世界の若者たちと 国境のない農民団 の結成に動いている。もっとも長い滞在はマレーシアで、多国籍が混在共生する国になっているので、食材は豊富、自給率は60%を超えているといことで。日本の若者農民団は勉強させてもらっています。またハイテク農業に切り替えてるシンガポール、熱帯食物が多くなっってきた台湾、ベトナムもこれからの日本の先行きにとって勉強になるらしい。すずにとって、グランパの裕さんが先生であるらしく、しょっちゅうメーるのやりとりしてます。もう直ぐ90歳になるグランパは自宅で自分の本の執筆とうちの農業のレポートを雑誌に掲載するのと、すずからのアジアの情報を整理してまとめているのと、いろいろ仕事は尽きないようで、どうか元気でいてほしい。知の支えです。

風子は畑の苗床係とハーブ類の育成はすでに20年になり、風子のハーブ育ての仕事はかなり知られてきています。さらにアジア系のハーブが仲間入りしてきて、まとめて出版したイラスト付きハーブ図鑑は品川の印刷屋ではベストセラーになりました。びわハウスから農民ケヤキハウスと繋がってやってきました、僕らも40代半ばになり、さてこれからどんな風に地球と生きていけばよいのか、瀬戸際に立たされています。そうだ、ご報告が遅れましたが、風子は40歳で二人目の子供を産みました。りょうという男の子です。ただいま5歳。なんとも穏やかな子です。それではまたいつか。

終わり