⭐️1 江戸の火消し
案内人・本日はたくさんのお運び、あつく御礼申し上げます。私、これから朗読にかかるお話が、より皆様にわかりやすく届きますよう、時々ご案内に出てまいります、八助と申します。どうぞよろしくお見知り置き願っておきます。さて本日は、喧嘩と火事は江戸の華と謳われました、そのうちの一つ、火事のお話なんです。やせ我慢で江戸の華なんて息巻いてるとしか思えないほど、江戸時代は火事がおおございました。
何しろ紙と木だけでできてる家ばかりですし、今のように水で火を消すなんて消防方法もありません、その上、江戸の町は西方面からの風が凄まじく、明暦の大火ではほぼ江戸の町は全焼、10万人が死ぬという大火に見舞われました。10万人と言いますと、当時人口100万人の江戸です。その1割がこの火事で亡くなったといことでして、えらいことです
享保4年のことです。時の八代将軍吉宗、江戸町奉行はあの大岡越前守、大岡の陣頭指揮で江戸に消防隊組織とも言うべき、江戸火消しいろは四十八組みができました。なんでも、この火消し創設の案、当時の閣外参謀とも言うのでしょうか、儒学者荻生徂徠先生の創案でありました。現在でも建設現場の下請け工事や町内の祭り準備に欠かせない鳶職組が火消し組織の大元なっておりました。 本日はお話は、江戸の町火消しの威勢のいい言葉が飛び交うお話です。いろは四十八具の中、人形町にありますは組の娘は組小町で名高い19歳のお初さん。そのお初さんの初々しい嫁入り話から始まります。
⭐️2 人形町は組
は組の頭・いま帰えったよ。
お初・あら、おとつあんおかえんなさい。
(あちこちから若いものの声 おかえんなさい かしらおかえんなさい かしらお疲れ様でしたなどなど)
は組の頭・おう。みんな、飯の最中にすまねぇ、お初ちょっと奥まできてくれ。
お初・あいよ。おとつっあん、一本つけましょうか。
は組の頭・そうだな、じゃあ頼もうか、あてはやきノリくらいでいいぞ。あちらで飯は、たっぷりいただいてきた。
お初・あいよ。じゃあすぐに行きますからね。待っててくださいよ。
は組の頭・おうよ。
鳶の源太・お初ちゃん、ここはオイラがみんなの飯の面倒みるから早くかしらのとこ行ってやってくれ。
お初・そうね、それじゃ、源太、お願いね。
(トントントン お初走る)
お初・おとっあん、あけますよ、頭がそんな浮かない顔してると、あっちの若いもんが心配しますよ、おとっあん、い組のかしらから何か言われました、何か面倒がありました?
は組の頭・いやあな、まぁ、お初そこへ座ってくれや。い組のかしら八兵衛がな、お前も知っての通り、俺の大恩人さ、その八兵衛兄がな、自分とこのトビかしら三五郎の嫁にお前をもらえないか、とこういうんだ。
お初・だって、、おとっあん、なんだってそんなぁ、、、
は組の頭・まあ、ま、聞けよ、お初。その場ですぐに断るわけにはーいかんだろう。へぇ、ありがたいお話ですが、まずお初に聞いてから、お返事は返させてもらいやす、とだけ言ってな、今夜はひとまず帰ってきたんだがな、、、。まぁまず、わしの話を聞けよ、お初。そりゃ、お前とうちの鳶頭源太が言い交わした仲だってえのはワシも承知しとる。
お初・だったら、なんで、その場でキッパリ断ってくれなかったんですヨォ。八兵衛頭が知らないだけで、みんなどの組の人も私と源太の仲は知ってるんですよ、い組の三五郎だって知ってて、そんなことをかしらに頼んで、ほんと嫌なやつ。
は組の頭・まぁ、そう、いきりたつな。俺の話を聞けよ、初。帰り道々俺は今日までのこと思い返しながら石町から人形町まで少し遠回りしながら歩いて帰ってきた。お前のおっかさんが変な風邪もらって一晩であの世に逝っちまった時も、六つか七つのお前を心配してな、しばらく八兵衛のおかみさんがが預かりしてくれた時も、うちで拾い上げた捨て子の源太もな、半分は八兵衛が一人前の鳶頭になるまでに見届けてくれていたのも、いつもこちらの組みの若いのを気にかけてくれてるのも、俺は、なんてありがたい兄気分がそばにいてくれるんだと。途中何度も目頭ふきふきな、こうしてなあ手を合わせてな、帰ってきたわけだ。(涙声)
お初・おとっあん、初もい組のかしらにはいつもいつも手を合わせてる。ありがたいよ、ほんとに。酒味噌醤油のなくなり具合から心配してくれてたこともあったんだから。 、、、だけど、それとこの話、初がい組の三五郎のとこに嫁に行く、とは別の話じゃないかい、お天道様が間違って西から上がってこようが、私は金輪際、源太以外の男と夫婦になる気はないよ、あの人をは組みのかしらに早くするのが私の夢さ。死んだおかっあさんの分までおとっあんには長生きしてもらって、このは組のちっこい家でのんびりしてもらうのが初の夢さ。何かい、もしかしておとっあん、い組は江戸火消の中の頂点、そこのおかみさんになった方が、初は喜ぶだろう、とでも思ったんじゃないかい、冗談は顔だけにしておくれ、おとっちゃんが言えないなら、初は自分で、い組に行って、頭にきっちり話しますよ。それがとびの家に生まれた女の意生地だよね。初は筋きっちり話してきますよ。
は組の頭・おいおい、まてお初。せめて行くのは明日にしなヨォ。
お初・あと、穏便にな、だろう。わかってますよ、おとっつあん。明日、八兵衛さんとおかみさんの好きな瓦煎餅でも土産に持っていきますよ。
(トントントン 走っていく音)
は組の頭・あいつは、あいつはもう、俺の手にヤァ負えねぇ。
⭐️3 日本橋石町い組 玄関先 松の木が植る、間口広く、さすがの玄関構えだ。。
お初・ご免なさいマシ、ごめんなさいましよ。は組の初です。頭おられますか。
い組の若いもの・ これはこれはお初姐さん、ただいますぐに頭に、姐さんがこられたと伝えてきやす。こちらにお入りになってちいーとのま、お待ちくだせい。
お初・すまないね、手間とらせて、、、、。
(ドタドタと奥の部屋からくる足音)
い組かしら八兵衛・おやおや、こりゃ、お初坊、久しぶりジャねいか、相変わらずえらいべっぴんじゃねいか。今日はどうしタァ。
お初・頭、すっかりのご無沙汰で失礼しております。今日はこうして突然伺って、あいすみません、また昨夜はうちのおとっあんが大変ご馳走になったそうで、おおきにありがとうでございます。。はい、これカシラと女将さんが好きな瓦煎餅、人形町の見世の焼き立てですよ。初のお土産です。
八兵衛・嬉しいねぇ、こんなピチピチ元気な娘っ子が土産持って、俺に会いにくるなんざぁ、、、。まぁお初、玄関先ではなんだから、あがんなよ。酒ってわけにゃ、いかんから茶でも一緒にどうだい。
お初・はい、頭、お相伴に預かりますよ。お邪魔しまーーーす。まぁ綺麗な衝立だこと。い組の頭はこういう物のお見立てがいいから、部屋が映えることねぇ。うちのおとったあんなんか。暖簾でも衝立でもあればいいくらいにしか頭マワラなイ。次のい組の頭にはそこらへんもイキになってもらわなくちゃ、いえ、これ私だけのグチじやなくて、死んだおっかさんもヨーク言ってました。まぁうちのおとうちゃんはいい着物の着せがいがないこと、何きてもおんなじだよ、全くさぁ、なんてね。そこいくと、こちらの頭はなんでも粋に着るよね、どんな着物でも映えるわぁ。
八兵衛・はっはははは、おいおい馬鹿に俺を持ち上げてるとこ見ると、お初坊、なんか魂胆ありかな、なんでも言ってごらん。お前が生まれた時からの仲だ、まっすぐ投げておいで。
お初・やはり、下手な細工は頭には見透かされますよね。えと、昨日うちのおとったんになんか考えてみてくれるようにと、初の縁談の話のことなんですけど。
八兵衛・そこらへんにいるお前たち、この部屋から散ってくれないか。
お初・いやいいんですよ。誰が聞いてても初の言うことは変わりないんで。実は頭には改めてお話しするつもりだったんですが、うちの鳶頭になった源太と私はずっと前から仲を言い交わして、一緒になる約束をしているんですよ。このことは大概のトビ連中は知っています。そこの三五郎さんも知っているはずですよ。初は源太と早く一緒になっては組を盛り立てていこう、足腰弱ってきてるおとっあんを隠居させてやろうと。初と源太二人でまぁこんな相談してでいるところなんです。ですから昨日のお話、三五郎さんとの縁談、大変ありがたいのですが、初は源太と一緒になります。早めに、一番にご恩ある頭に、このことお話ししていなかった初の無礼をどうかどうか許してやってください。
八兵衛・なんだい、そんなことになっていたんかい、お初、手を上げてくれ、こりゃ、ワシだけが知らずに無粋なことした、勘弁してくれよ。そうか、そうか、源太とね、お初坊らしいやね。お前のおかっさんが孤児の源太を拾ってきたのも、お前の亭主にする定めだったのかも知れんぞ。そうかそうか。よし、昨日の話はさらっと流して、八兵衛この祝宴の取り仕切り、引き受けようじゃねーか。
お初・そんな、こんな義理欠いた初にもったいないです。もともとうちうちで質素にやるつもりでいました。ほんとに今日はいてもたってもいられなくていきなりまくしたてに来ました初の無礼は重々承知しています。この通りです。(深くお辞儀)ただ、曲がった噂が立たないうちに初の気持ちをを八兵衛頭には丸ごと受け取っってもらいたい一心で、、、、。
八兵衛・わかったよ、お初。めでたいことだ。は組小町と評判のお初坊の嫁いり姿が見られるとは、ありがたいことだぜ。
八兵衛妻・(襖をガラッと開けて)フスマの向こうで全部聞かせてもらったよ、お初。わたしや嬉しいよ。嬉しくて泣けてきたよ。それでこそまといもちの家に生まれた女だよぉ。(涙声で)
お初・お、おかみさん、、、。
八兵衛・おいおい、い組の大黒柱が泣いてるぜ、何があってもくすんとも泣かない女が、これは珍しいヤァ。(笑)
⭐️4
案内人・火消組の中の一番力のあるい組の頭が源太とお初の祝宴を取り仕切るとあっちゃー、江戸中の町火消しが揃い踏み。祝い、歌い、踊り、もちろん祝宴は木遣りのおねりから始まり木遣でおわる、そりゃぁにぎやかで二度と見られないいい婚礼の宴となりました。お祭り騒ぎのなかで、は組の頭、お初のおとっあんだけは一人泣いてばかりでした。お初と源太は仲睦まじく、人形町のげんやだなの小さなの借家に住み始め、お初は近くのは組へを行ったり来たりしているまいにちです。さて、江戸では火事が起きると、火の見櫓(ひのみやぐら)に吊るされた「半鐘(はんしょう)」を打ち鳴らし、火事を知らせます。鐘の叩き方で、火元からの距離、風向きなどから判断して、危険度が低い時は間隔をあけて半鐘を打ち、危険度が高い時は半鐘を乱打して人々に避難を促し、火消しを召集しました。
さて、初々しい新婚のお初さんと元太の家です。
⭐️5 人形町ゲン屋だな 初と源太
初・あんた、昨日は木枯し吹き始めだったけど、今日は小春日和ってやつだね。1日いい陽気だった。ばんご飯に一本つけて二人で飲むかい。
源太・いや。やめておく、なんか風もねえんで、みんなウキウキしてる、こんな日は用心しないとな。まといもちは酒はよっぽどのことがない限り、夜はやめておいた方が、な。
初・そうだね。こりゃ初が一本とられちまった。じゃ、ご飯はたんとお食べよ、魚も貝も、いいのがきてるよ。おとっつあんとこにも刺身にして持っていってあるからね、たんと食べてくださいよ、纏頭さん。
源太・からかうんじゃねえよ、お初。刺身うまいなぁ、このジジミのおつけは五臓六腑に染みるぜ、うめええ・うめええ・
(半鐘の音)
初・お前さん、半鐘がなってるよ。オヤ、これは近いんじゃないかい。
源太・ そだなぁ、近いな。よし、いくぞ。今夜は風もねえし、なあにすぐ納めてくるさ。おう初、ゆっくり横になってな。
初・何言ってんだい。誰が横になんぞなれるもんかい。お前さんがそうして出て行った後。何度も何度も神棚にお願いしいしい、外に出て火事場の方に向かってに手を合わせたり、いっときでもじっとしてられないんだよよ。気をつけて行くんだよ。
源太・おうよ。てへ、恋女房に見送られて火事場に走る源太さん、とクラァ。
(お初の神頼みの声とか 半鐘の火事が消えた音とか)
初・あれ、どうしたんだろう。火が治ったって半鐘がなってから、随分と経つよ。なんかあったんじゃないだろうね。初も現場まで走るかねぇ。
(どやどやした声が近づいてくる そこどいてくださいよ。てえへんだ、てえへんだ、チートそこ開けてください)
初・ 新吉、一体どうしたんだい。
新吉・姐さん、源太兄いが、、、落ちたんだ
初・ なんだって、うちの人が、、、、。おとっあんどうなってんだい、、、
頭・初、騒ぐな、源太が、、、、もうダメかも知れん、、、。見てみろまっくろになりやがって、、、お初の声は聞こえるかもしれねぇ、耳元で声かけてやんなぁ。
初・あんたぁ、いやだよ、初を置いて、こんなことあるんかい、あんたぁ、、目を開けておくれぇ。
源太・(か細い声)炙られた
初・あんたぁ、ぁぁぁぁぁぁ。
⭐️6 案内人 まといもちのひ消し方
江戸時代の消火は延焼方向の家屋を解体して延焼を防止する破壊消防です。それで町火消しのまといもちが先を争って壊す家の屋根や土蔵の上にのるわけで、その後に続く、二番乗りのまといがしらの判断で、次々降りてくるのが決まりです、降りた途端にその家屋が崩れ、延焼を防ぐといことで、一番乗り纏がしらは命かかってます、何もあんなに派手で重そうな纏フランでもいいのでは、と思ったりするのですが、それはそれ、江戸時代の華なんですから、それくらいやらせてよ、てもんです。町火消は見かけだけいいばかりじゃないですよ、家屋の構造を熟知し道具の扱いに慣れた鳶職が多い、。万が一っk纏持ちが落ちるの気があれば、それは火に炙られたという言い方をします。
⭐️7 年明けの火事
初・源太が三五郎にあぶられたのは、新吉が現場の様子を私にじっくり話してくれたんではっきりしてる。三五郎、このままじゃ済まないよ。源太が、私の可愛い亭主がどんなめに合わせられたんか、その熱さや痛さ、怖さ、考えただけでも涙が止まらないよぉ、三五郎のひどい逆恨み、なんて醜いやつなんだ。
(半鐘の音)
初・おや、半鐘が鳴り出した。ちと遠いいが、これは浅草かね、田原町かね、この西からのからっ風だと、ひょっとすると、ひょっとしちゃうよ、危ない危ない、観音までは行かせないよ。
新吉・あねさん、おいら源太兄いの纏借りに来ましたぜ、おいらにこの火事、諌めさせてくだせえい。
初・新吉、ちょうどよかった。うちのかしらから、この手紙を芝まで新吉に届けさせてくれ、という頼み事が来てたんだよ。今日のところはこっっちの用事をやっておくれでないかい。
新吉・あねさん、何言ってんですか、この火事観音さんも危ないって噂流れていやすよ、うちの組みでまもらなキャァ、、、。
初・わあかってるよ、だけどね、この手紙も大事なんだよ、よし、纏は私が現場までモッっていくよ、新吉、手紙届けたら、すぐに現場に走りな。
新吉・姉さんに頼まれると、源太兄ぃもそうだったけど、なんにも口ごたえできずにいいなりさぁぁ、、、。わかりやした、おいら急ぎます。きっとまとい持ってきて下せいよ。
初・よし、約束は死んでも守るよ。
新吉・じゃぁ、お願いいたしやしタァ、、、、。
⭐️8
案内人・ 田原町で起きた火事は蔵前まで伸びる勢いで土蔵の上にい組の三五郎が一番最初に纏を上げました。その次に、は組、あ組、さ組と続いた。
火の勢いつよくて、土蔵が崩れるのはもうすぐ。。纏持ちは下に降りないと危険だ。い組の三五郎が降りようとするが、その下のは組の纏持ちが頑として降りない。
三五郎・何やってんだーーー、は組、どいつだかしれねぇが、早く降りろ、我も炙られるぞ。
初・やい、三五郎、この顔をよーーくみやがれ、よくもよくも源太をあぶったなぁ、、、
三五郎・お、お、前は初、、、。
下の者たち、い組の三五郎が落ちたぞーーー、危ねえ、は組は誰なんだ、新吉はここにいますぜ。
は組かしら・おいお前たち、よーくみろあれは初だ。
(あっ姐さん姐さんの声声)
は組かしら・三五郎、あの落ち方だと、もう生きちゃあいめえ。初もじきに落ちる、初もいきちゃあいめえ。。初よ、源太の仇を見事とったぞ、覚悟の上だな、初よ、、おおおぉ初よ、誰にも言わず、逝っちまうんだな。まだ源太も三途の川のあたりだろう、お前を待ってるかも知れん、真っ直ぐ行け、あの世で二人、仲良く暮らすんだぞ。(最後は涙声 ガラガラがらーーと家が崩れる音)
終わり
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講談「は組小町」を試聴しながら朗読台本用に再構成しました
構成台本製作・平野公子
